勢い余って後悔することはよくあったけど、今日ほどひどいことはなかったと思う。

 ナビィの占いで「占いに頼ると吉ぞよ」なんて、いつも通りよくわからない結果が出たから、手分けして街で手がかりを探すことになった。
 わたしがみんなに、半ば強引に同行するのもいつものことだ。みんなとゴーカイガレオンで旅をしてきて、この地球にもやってきたのに、わたしはゴーカイジャーにはなれないから、ザンギャックと戦うこともできないから、ガレオンで留守番をしていることが多かった。

 だけど、それがずっと辛かった。

 みんながボロボロになって帰ってくるのに、わたしはそれを手当てすることしかできなくて、みんなが命がけで戦っている時には、わたしはみんなのために祈ることしかできない。

 わたしがガレオンにいる意味ってなんなんだろう……わたしはガレオンにいていいんだろうか……みんなの傍に、彼の、隣に――

 賑やかな街中には似合わないクールさをまとって隣を歩く彼に少しだけ視線を向けた。ルカやアイムがわたしと彼を組ませたのは、2人がわたしの気持ちに気づいているからだろう。彼は知らないと思うけれど。

「占いの結果が占いに頼れなんて、おかしいよね」

 わたしの視線に気づいても彼の方から口を開くことはないから、わたしの方からさりげなくそう言えば「そうだな」と彼―― ジョーから、低い声が返ってくる。

「あ、でもちょうどあそこに占いのお店があるみたい」

 視界に入ってきた人ごみは、いかにもなお店に入りたい人たちで。わたしはジョーの一歩先を進んでその入り口を覗き込んだ。こんなに人だかりなら、きっとよく当たる占いなんだろうな。

「随分人がいるんだな」

 ジョーは占いには当然興味なんてないんだろう。冷めた声が聞こえて振り返ると、少し眉間に皺がよっていた。

「きっとよく当たるんじゃないかな? 何か手がかりがあるかもしれないし、入ってみる?」
「ここにか?」

 嫌そうだ。

 たしかにこんな人ごみの中にジョーはあまり足を踏み入れたくないだろう。だけど、わたしとしては手がかりなしにガレオンに戻る方がイヤだった。

「手がかりがなくても、よく当たる占いなら何かアドバイスがもらえるもらえるかもしれないよ?」

 熱心に言ってみても、ジョーは渋い顔のままだ。それもそうかもしれない……周りは人ごみ、というかカップルだらけで……そういえばどうしてこんなにカップルばかりなんだろう? もっと女子だけのグループがいてもいい気がするのに。
 きょろきょろと辺りを見渡して、その答えを入口近くの看板に見つけた。ジョーはもしかしたら、気づいていたのかも……だから渋い顔だったのかもしれない……。

 今日はカップル限定と書かれている。

「……行くぞ」
「ま、待って!」

 わたしが気づいたことを察したのか、短くそう言って踵を返したジョーの袖を思わずつかんでいた。

「わ、わたしとジョーならカップルに見えるよ!!」

 なんてことを言ってしまったんだろう。

 ジョーの顔を思い出すたびに穴があったら入りたくなる。結局わたしの勢いに押されたのか、わたしとジョーは賑わっている占いに入ることになった。もう少しで順番だ。ジョーの不機嫌さがひしひしと感じられて、いたたまれない。

「次の方、どうぞ」

 静かだが優しそうな女性の声が聞こえて、わたしたちはヴェールをくぐって薄暗い部屋の中へと足を踏み込んだ。青い薄布で顔を隠した占い師は若い女性のようで、彼女の目の前のテーブルには水晶が置かれている。それから昔話に出てくる、精霊が出そうなランプが1つ。他の道具は見当たらず、アロマのような落ち着く香りが部屋の中を満たしていた。

「座ってください」
「は、はい」
「それで、今日は何を占いますか?」
「えっと……探している物があって……」
「えっ?」

 不思議そうな占い師さんの声に、わたしはしまったと内心焦った。カップル限定なのだから、そういう質問をするべきだった……。

「俺たちにとって大切な物だ。占えないのか?」

 どうしようと言葉を探すわたしの隣で、ジョーがいつもと変わらない声のトーンでそう告げた。びっくりして振り返ると、その表情もいつもどおりだ。

「……わかりました」

 占い師が何か小声でささやく声と、手元がキラキラと光る様子に目を丸くし、占い師が覗き込む水晶玉を思わずじっと見つめてしまう。
 その中に、何が見えるのだろう? 何か情報が手に入ればいいけれど……その思いが過ると、胸がぐっと苦しくなった。ジョーに付き合ってもらった上にフォローまでしてもらった。これでもし何もなかったら……そう思うとたまらない。

「あなたたちの探し物は――

 水晶玉を見つめたまま、占い師が静かに口を開いた。

「大きな扉の向こう側にあります」
「扉?」
「その扉は小さな鳥が場所を知っているみたい」
「鳥……?」

 ナビィのこと? ちらりとジョーを見上げると、同じことを考えているのか眉を顰めている。

「どんなささいな言葉でも、その子の言葉を信じてあげて」

 占い師の言葉はそこまでだった。

 結局、何もわからないのと変わらない。

 ジョーから一歩遅れて歩きながら、わたしは顔を上げることもできなかった。「ごめんね……」とこぼれた声が届いたのか、不意に立ち止まったジョーに合わせて、わたしの足も失速する。

「何がだ?」
「せっかく付き合ってもらって、フォローまでしてくれたのに……何もわからなかったから……」
「そうだな」

 あっさりと返ってきた返事に、喉の奥が熱くなる。こういう時、ジョーが下手な慰めを言わないことはわかってるし、言ってほしいわけではないけれど、改めて自分の役に立たなさを突きつけられた気がしてどうしようもなかった。

「わたし……ダメだね……」

 泣き言を言っても仕方ないけど、思わず口からもれてしまう。

「何がだ?」
「せめて大いなる力の手がかりを探すくらい、手伝いたいのに……」

 何もできなくて……地面がぼやけて見える。目頭が熱い。ここで泣いたら本当にダメなやつだと思ってぐっと唇を噛んだ。

 不意に、頭に重みを感じる。それから温もりを。ほんの少し視線を上げると、それはジョーの手で。ぽんぽんとわたしの頭を撫でる手は、普段の彼のクールさからは想像もできないくらい、やさしい。
 その手はすぐに離れて、ジョーはまた背中を向けて歩き出す。にじんだ涙を袖で拭って、わたしは急いでその後を追った。

「お前にはお前のできることがあるだろう」

 こちらを振り向きもしないジョーの表情はよくわからなかった。だけど顔なんか見えなくても、その声音がじんわりとわたしの胸に染み込んでくる。

「……うん」
「お前をダメなヤツだと思ったことはない。俺も、マーベラスたちもな」

 胸に手を当てれば、そこがほんのりと温かいような気がした。やさしい彼の手が、焦ることはないと言ってくれているようだった。
 ケガの手当てでもなんでも、わたしにできることを精一杯やろう―― 無理にみんなについて行こうとしなくてもいいのかもしれない。

「ありがとう、ジョー」

そうつぶやいたわたしの言葉に、彼は笑っているのだろうか?

彼のやさしさ
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