刑務所の周りだからなのか、時々街灯が音を立てる以外はひどく静かな夜だった。車内で機械に囲まれながら、ロシアの夜だからかもしれないとは勝手な印象を抱いていた。
「医療チームと一緒の仕事は初めてだ」
パソコンに向かいながらひそひそと話しかけてきたのはIMFの諜報員、ベンジー・ダンだった。彼が元々技術班の人間だったとは知っていたが、現場に出ていたことは知らなかったから一緒になったのには少し驚いた。
でもやっぱり現場でも機械をいじっている。現場の諜報員は基本的に何でもできるが、やはり自然と役割分担ができていて、それぞれの得意分野を担当していた。
「上からの指示がないと現場に出ないんだろ?」
「長官に言われたの」
はそっけなく言った。
「イーサン・ハントを脱獄させたらすぐに彼の健康状態を確認してほしいって……きっとすぐに次の任務につけたいのね」
「現場のエージェントってそんなもんさ」
IMFの人間ならその名を知らない人間はいないくらいイーサン・ハントは優秀な諜報員だった―― この数年は姿を見なかったが。
それが何故かロシアの刑務所に服役中で、このチームの任務は彼を脱獄させることだった。
数日前に医療班から誰か派遣してくれという依頼があり、他の仕事で手いっぱいだったにも関わらずは立候補したのだ。
働きすぎだと、ジーナに口うるさく言われるようになってどのくらいたつだろう。はそれを考えようとしてやめた。自覚がないわけじゃない。
色々と忘れたくて、必要以上に仕事をしている。今回も医療班の誰かに、という依頼だったのにも関わらずが立候補したのだ。婚約が破棄になって随分たったように思えるが、今でもはあの日の重い荷物を引きずっていた。
ベンジーがパソコンを操作する音が車内に響いた。過激な作戦だ。「“お友達”もだしてやろう」と呟くベンジーから視線をそらし、別のモニターをはぼんやりと眺めることにした。