思った以上に厄介な任務に自分は足を突っ込んでしまったらしい。はさすがの事態に表情を強張らせた。
ジェーンとベンジー、そしてその任務で命を落としたハナウェイがロシアの核の発射コードを盗まれた。ハナウェイの命を奪った女暗殺者のモローによって。
イーサンは別の任務で“コバルト”というテロリストを追っていて、その情報を得るために刑務所にいた。
そしてそのモローと“コバルト”に繋がりがあるらしい。
新たな任務について聞いているイーサンの背中を眺めながら、ベンジーとジェーンが彼のプライベート―― 離婚したこと、姿を消していたこと―― を話している。自分はどうすればいいのだろうか。さすがに医療班の出る幕ではないが、離脱するタイミングが掴めない。
メッセージが消滅しなかったというちょっとしたハプニングがあったものの、新たな指令を受けたイーサンの顔が険しいのはそれが原因ではないのはわかりきっていた。
「クレムリンに侵入する」
イーサンはひと言そう告げ、「君の離脱はその後だ」とに言った。
赤の広場は観光客で溢れている。はジェーンと共にその観光客の一人を装っていた。
「ちょっと戸惑ってるでしょう?」
カメラを覗き終えたジェーンがの方を向いた。イーサンとベンジーは今頃侵入しているのだろう。
「ここまで一緒に行動するなんて」
「そうね―― でも、そういうこともあるわ」
「現場へは何度も来ているの?」
「何度か。一応、試験もパスしてる」
「医療班なのに?」
「医療班にいると―― 」
ブルネットを耳にかけ、は少し視線を下げた。
「時々、現場の諜報員がわたしたちのところに来るの。愚痴をこぼしに……ちょっとした相談所ね」
だけではない。医療班の人間全員がそれを経験していた。
「それで、現場にも興味を持つようになったの。現場に出れば、もっと理解できるんじゃないかって思ったし―― 」
「でもそれ、医療班の仕事じゃないんでしょう?」
「そうだけど、きっとわたしたちそういう性分なのね」
ジェーンが少し笑ったのに、も微笑んだ。
「あなたも何かあったら、相談に来ていいのよ。ジェーン」
寒さはあったが、気持ちのいい陽気だ。殺伐とした任務とは不釣り合いの空。
ジェーンは少し困ったような顔をしたが、はそれ以上何も言わなかった。こういうことは、相手を待つ方がいい。
「は」
ゆっくりと、ジェーンが口を開いた。
「恋人は?」
「……いないわ」
暗い影が過り、は静かに首を振った。
「恋人だったのね?」
ハナウェイのことを口にした時のジェーンの様子を、は思い浮かべた。
「……もしモローが現れたら―― 」
「ジェーン」
答えなかったジェーンをはたしなめた。
「任務よ」
タイミングよくインカムにノイズが入り、二人は会話を思考の外に追いやった。
聞き覚えのない声が、イーサンを呼んでいる。誰かのうめき声、そして、イーサンを呼んだ声が爆破準備を終えたと言う。
とジェーンはハッとして顔を合わせた。「中止だ」とイーサンが告げたのと同時に、二人は足早にその場を立ち去ったのだった。