こんなことになるなんて。はその細い指で眉間を抑えた。
何者かに任務を妨害されたのだ。クレムリンは爆破され、このセーフハウスにいるのはとジェーン、ベンジーの三人だけ。イーサンとは連絡も取れない。
「待機よ」
本部と連絡を取っていたジェーンがひと言そう告げた。
「待機って……それだけ?」
「追って指示が出るからこのセーフハウスで待てって……も」
顔をあげると、明らかに困惑した表情のベンジーが見えた。
「コバルトに先を越されたのね」
「何も言われなかったわ」
「でもクレムリンにはコバルトも向かっていたんでしょう? それならそう考えるのが普通よ」
ジェーンは何も言わなかったが、彼女自身もそう思っているのははっきりとわかった。
「イーサンは無事かしら……」
代わりに聞こえたジェーンの言葉が、空気をより重いものにした。あの爆破で無事だとは考えにくい。
「ま、まさか死んだってことは……な、ないよな? あの、イーサン・ハントだぜ?」
「イーサン・ハントが素晴らしいエージェントだっていうのはわたしも聞いてるわ。でも、あの爆破のことを考えたら―― 」
「やめて、」
本心ではなくても口から出ていた。不信な目がを見つめていたが、彼女はどうする事もできずに再び顔を伏せた。さっきは眉間を触っていた手は、無意識に胸元へ延びる。
指輪があった。
細いシルバーの指輪は同じ色の細い鎖に通され、の首にかけられていた。かつて婚約指輪だったものだ。彼からもらった―― 彼との婚約指輪だったものだ。
不安になると彼女は無意識にそれに触れた。彼と離れてもう随分たった気がするのに、にとって彼と彼との思い出は心の支えのままなのだ。
これからどうなってしまうのだろう……。
狭いセーフハウスの中に来訪者を告げるサイレンが鳴ったのはその時だった。ジェーンとベンジーは咄嗟に武器を手にして照明を落とすと、入口に向かって身構えた。
ここに入れるのはIMFの人間だけのはず。そうでなければ侵入者だ―― の脳裏にコバルトの名前が浮かんだ。クレムリンで先を越された。ここにも敵の手が伸びない保証はない。
「イーサン!?」
しかしベンジーが呼んだのはたった今ここで話題に出ていた人物の名前だった。
明るくなった照明が、ずぶ濡れのイーサンと彼の連れの姿をはっきりとさせた。脱獄したときも彼には連れがいた。見知らぬロシア男―― でも今度の連れはロシア人ではなかった。
「死んだのかと……そいつは?」
「分析官のウィリアム・ブラントだ。ブラント、こっちはベンジー・ダンとジェーン・カーター。それから」
イーサンの連れ―― 分析官のブラントはその灰色の目をの方に向けた。
「ブラント……」
「・……」
灰色の瞳が戸惑いを隠せずにを見つめていた。彼女は表情を険しくし、睨むようにブラントを見ていた。
「知り合いか?」
「少しだけ」
はそっけなく言った。それ以上問い詰められることもなく、イーサンが流し始めた映像を見るために彼女はブラントから視線をそらしたのだった。