「嫌いなの?」
スーツに袖を通しながらは声の方に顔をあげた。
これからブルジュ・ハリファに入る―― その前にそれなりの格好に着替えるため、チームは隠れ家の一つに来ていた。
「何?」
唐突なジェーンの質問には首を傾げた。ジェーンの瞳は真剣で、何故かはドキリとした。
「ブラントよ」
「どうしてそう思うの?」
大丈夫、冷静だ。自分に言い聞かせ、は着替えを済ませようとする。
「態度があからさまだわ。確かに現場に出たことがない人間がチームに入るのは不安だと思うけど……」
「怪我でもされたら仕事が増えるしね」
そっけないの言葉にジェーンは少し眉を顰めた。
「でも同じチームにいる以上、割り切らないとダメよ。特にこんな時なんだから」
「あなたにだって言えることよ。ジェーン」
「わたしは……わかってるわ」
本当に? そう問いただしそうになった声を、は飲み込んだ。言い争いになるのはわかりきっているのにわざわざそれをする必要はない。
「、だから―― 」
「わたしは、わかってる」
代わりに言い聞かせるようには言った。そう、わかってる。
「それに、別に嫌いなわけじゃないわ……ただ、どう接していいかわからないだけ……」
「何かあったの?」
「何も」そう言いたかったが、どうしても言うことができなかった。そのまま何も言わず、はそっと銀色の指輪に触れた。
何もなかったと言うには、大きすぎるのだ。
「その指輪……」
ジェーンは初めての首元に光る指輪に気付いた。思い返してみると、はよくそれを触っていた気がする。
はさっと手を指輪から離し、複雑な色を帯びた瞳でジェーンを見つめた。
「わたしにも」
唐突には言った。
「婚約者がいたわ。IMFの人間よ。この指輪は彼との婚約指輪だった」
「だった?」
「ある任務があって―― 婚約はなくなったの」
ジェーンの表情が強張ったのを見て、はそっと視線を外した。
「どうしたらいいかわからなかった……誰かを恨めばいいのか、悲しみにくれればいいのか……結局できたのは、仕事に没頭するだけだった」
「恋人がいないって言ってたのは……婚約者が忘れられないから?」
こみ上げてくるものを感じ、はただ首を縦に振った。
「仕事に没頭した方がマシよ、ジェーン……他のことは考えない方がいいわ」
言い聞かせるようにその言葉を口にするのは忘れなかった。