「あの接着手袋のこともあるし科学に頼るのは……」
まさか次が自分の番だと思っていなかったブラントは、内心頭を抱えながらそう口にした。
サーバールームに飛び込むなんて……。
「科学を信用しろよ。問題は熱さ」
隠す気もなく盛大に眉をひそめ、ブラントは顔をあげた。その表情が一瞬で180度変わったことにベンジーは気づき、ブラントの視線の先を振りむいた。
「今……大丈夫かしら?」
肩に上着を羽織ったドレス姿のがはにかみながら、しかしどこか困った風に立っている。
「もちろん!」
呆けたブラントの代わりにベンジーは答えた。
「ジェーンがイーサンとミーティングをしていて……自分でドレスを選んだんだけど鏡があるわけじゃないからどんな風なのか……その、意見を聞きたくて」
「あー……そうなの? 俺、ちょうどコーヒーを入れてこようと思ってたから……。ブラント見てやれよ」
「ベンジー、」
ベンジーが立ちあがったのでブラントは咄嗟に腰を浮かした。しかしブラントが引きとめる前にベンジーは素早くその場からいなくなってしまった。
残された二人は気まずそうに向かい合って立っている。
「それで、」最初に口を開いたのはだった。
「どうかしら?」
「ドレス? 似合ってる。綺麗だよ」
ベンジーが変に気を使ったせいで妙に意識してしまい、それを誤魔化すためにブラントは口早に感想を言った。
「上着を外さないのか?」
「これは……その、ファスナーが途中で布を噛んだみたいで……押さえてないと……でもすぐに脱ぐから大丈夫」
「直そうか?」
「大丈夫よ」
「後ろを向いて」
半ば強引に後ろを向かせた。顔を合わせるよりそのほうが変に意識しなくていいかもしれない。
それでも久しぶりに見る彼女の背中は魅力的で、ファスナーを直す手が少し震えているのにブラントは気づいた。
ゆっくりと振り返ったの頬が赤いのは、照明のせいだろうか。
「それ……」
視線を首元に移すと、見覚えのあるシルバーのリングがある。つられて指輪を確かめたはどこか不安そうな顔をした。
「もしあなたが外せって言うならわたし……」
「いや、違うんだ。その、ドレスに付けているのは変じゃないかと思って……。僕が―― 預かろうか? 終わったらちゃんと返すよ」
「返さなくてもいいのよ……」
首からチェーンを外し、はそっと指輪をブラントの手に乗せた。それを胸ポケットにしまいながら「返すよ」と聞こえないくらいの声で彼はささやいた。
「ウィル」
「ちゃんと返す」
彼女のヘーゼルの瞳に自分が映っている。ブラントは静かにそれを見つめ返した。
ドレスなんて着ていなくてもは綺麗だと彼は知っていた。
ゆっくりと、の髪をブラントの指がどかす。二人は反射的に顔をあげた。
「あー戻ってくるの速かったかな?」
さっきまでの雰囲気はとても残っていなかった。気まずそうに立っているベンジーが慌てて背を向けようとするのを揃って引きとめ、さっきまでとは真逆の空気が二人の間に鎮座していた。