細身に映える白いドレスはいつもよりを儚げに見せていた。
もちろん、それだけではないだろう。それぞれがそれぞれの役目につき彼女はイーサンと一緒にいたが、ひどく心配そうな顔をしている。
イーサンはの横顔を少し見た。が何より心配しているのはきっとブラントのことだろう。
ブラントがサーバー室に文字通り飛び降りることになった時、は一瞬それがどういうことなのか理解できなかった。
後で改めてベンジーから説明を受けたの顔は誰の目から見ても蒼白だった。
「大丈夫かしら」
ほとんど口を動かさずに彼女は囁いた。
「ブラントが?」
「ジェーンよ。彼女と話した?」
「話した。君はどうなんだ?」
「……彼のことを言いたいなら今はそんな話をする時じゃないでしょう?」
『何だこれ!?』
耳元に聞こえたベンジーの声にイーサンとは口を閉じた。
ヘンドリクスに先を越されたのだ―― ウィルスがダウンロードされ、衛星のプログラムが書き変えられようとしている。イーサンがジェーンにターゲットからすぐにコードを聞き出すように指示をしたが手遅れだった。
このままではミサイルが発射される。はイーサンを見た。
「まだ間に合う」
イーサンの言葉は決して気休めではなかった。
「逆探知してヘンドリクスの居場所を突き止めるんだ。ジェーンは僕と合流。は向こうの二人のところへ」
「わかったわ」
このパーティ会場にふさわしいドレスのまま煌びやかな世界から遠のき、はブラントがサーバー室へ侵入した地点へと向かった。
開け放たれた扉から、ファンの回る音がする。
は迷うことなくその穴を覗き込んだ。ブルネットが大きく舞い上がる。顔中に風を受けて、息ができなくなりそうだ。
「ウィル!」
咄嗟には叫んでいた。すぐそこに―― 何故そうなったかはわからない―― ブラントがいる。声に反応して彼は何とか上を向き、そこにの姿を見つけた。
「さがってろ!」そう叫ぶのが精いっぱいだった。
「ベンジー! 彼をどうにかして!」
『無理だ! ファンも止められないしローヴァーが反応してない!』
「いいからさがるんだ!!」
声を出す暇もなかった。
ブラントが体を丸め勢いよくファンの上に落ちて行く。そして次の瞬間にはローヴァーの磁力を使い、ファンの力だけでは上がりきれなかったのいる所まで戻ることに成功した。
さがりきっていなかったをほとんど押し倒すように脱出したブラントは慌てて体を起こした。
首に重みが加わる。の腕が―― 少し震えた腕がしっかりと彼の首を抱きしめていた。
『ブラント!?』
「ベンジー、次回は僕が金持ちを誘惑する……」
本当にそうしたい気分だ。こんなことはもうコリゴリだった。ブラントはが声を立てて笑ったのに気付き、少しだけ口元を緩めた。
「ベンジーと合流するぞ」
「わかってる」
顔をあげたの瞳から不安の色は消えていた。核戦争を阻止できたわけではないのにと思いながらも、ブラントにはそれが少し嬉しかった。