#15

 ヘンドリクスがいるテレビ局へ車を飛ばしている間も、ミサイルは発射されようとしていた。
 イーサンの「間に合わせる」という言葉には説得力があったが、現実的には不可能だ。

 ここにきての心臓にこの任務の重さがどっと押し寄せてきた。今までは気づかなかっただけかもしれない。あるいは、必ず阻止できるような気がしていたのかも。
 しかし現実に発射までの時間は刻一刻と迫っている。現場のエージェントは、こんな任務もするのだ。そして、いつもこんなプレッシャーを――

 は運転するブラントの横顔を見た。

「ダメだ! 発射された……」

 ベンジーが叫んだのはちょうどその時だった。「そんな……」という呟きさえ喉からでない。

『まだだ! ミサイルを無効にする。ケースを奪うんだ』

 ブラントがアクセルを強く踏んだのがわかった。

「大丈夫だ」
「ブラント……」
「大丈夫」

 ハンドルを片手でしっかりと握ったまま、もう片方の手でブラントはの肩を掴んだ。パーティ会場での安堵の表情が嘘のようにが必要以上の不安を感じていることに、彼は気づいていた。
 二回目の「大丈夫」を言った彼はの方を見ていなかったが、その言葉が自分に向けられたものだとは気づいた。

 心の中で彼の名前を呼ぶ。

 気を遣わせてしまった。任務中なのに……。フロントガラスに映るの顔には不安が色濃く浮き出ていた。
 気を引き締めるためにはぎゅっと唇を閉じた。
 車が音を立てて止まり、誰が指示するでもなく三人は銃を出しながらテレビ局の中へと飛び込んで行った。

 イーサンはヘンドリクスを追って行ったらしい。ウィストロムによって中継器が破壊されたため、ブラントはすぐにベンジーに修理を指示した。
 電源が落とされ真っ暗になった部屋の中で、懐中電灯の光だけが頼りだ。

「ウィストロムを追わないと」

 腹に負った傷を押さえながらジェーンは言った。

「ウィストロムと電源の方は僕が行く。、ジェーンを」
「わかってる」

 立ち去る前にブラントが、一瞬自分を見つめたような気がした。
は心の奥にある感情に気付かないフリをしてジェーンの傷に向きあった。

「大丈夫?」
「あなたこそ」

 ジェーンに言われ、は肩を竦めた。

「仕事に集中してる間は―― 弾は残ってないみたいだけど出血がひどいわ」
「平気よ」
「もうすぐ任務も終わるからな―― ブラントは?」
「まだ電源は戻らないわ」

 修理を終えたベンジーが様子を見に行くと銃をチェックした。

「電源が戻ったらこれを、こうするんだ。、銃は?」
「大丈夫」
「ジェーンを頼むよ。彼氏の方は任せとけ」

 彼氏じゃないと言い返す間もなく、ベンジーはいなくなってしまった。

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