誰の目から見ても明らかに、シリウスとは親しくなっていた。
授業が終わった後、2人きりで図書館にいるのをよく見かけるようになったし、談話室で一緒に課題をやっている光景も時折見かけられるようになった。
シリウスがエミリーと別れたばかりだったので、最初は誰もが次の恋人が・なのだろうと思ったが、2人の雰囲気はどうも恋人同士とは違うようだ。何なのだろう?
ジェームズ・ポッターは2人の間にある不思議な雰囲気が気になって仕方なかった。
誰の目から見ても明らかに、シリウスとは親しくなっていた。
授業が終わった後、2人きりで図書館にいるのをよく見かけるようになったし、談話室で一緒に課題をやっている光景も時折見かけられるようになった。
シリウスがエミリーと別れたばかりだったので、最初は誰もが次の恋人が・なのだろうと思ったが、2人の雰囲気はどうも恋人同士とは違うようだ。何なのだろう?
ジェームズ・ポッターは2人の間にある不思議な雰囲気が気になって仕方なかった。
「最近、と仲がいいね」
肘掛け椅子に深く座って、やる気がなさそうに本のページをめくるシリウスに、ジェームズは思い切ってたずねてみた。
「別に」
「付き合ってるのかい?」
「まさか」
シリウスが鼻で笑うと、すごく嫌味に見えるな。ジェームズはちょっと眉根を寄せ、親友から読みかけの本を奪い取った。
「真面目に聞いてるんだ。真面目に答えろよ」
「大真面目さ」
「本を読みながらかい?」
溜息をつくシリウスに、ジェームズは彼がこの話題を終わらせたいのだと覚った。しかし、そういうわけにもいかない。
シリウスにはいつも誰かしら恋人がいて、しかもその恋人の顔がかなり早いペースで変わってしまうことをジェームズはもちろん知っていた。そして彼はそれがずっと気にいらなかった。
1年生の頃から親友だったし、シリウスがどんな人間なのかジェームズなりにわかっているつもりだ。そこからいくと、シリウスがそんな行動を取るのはシリウスらしくない。何より、シリウスが恋人として付き合う女子生徒はどうも彼のタイプではない気がする。
そして、・はその女子生徒たちと全く正反対のタイプだった。
「と付き合ってるの?」
ジェームズはもう一度たずねた。本を奪われたシリウスが、嫌そうにその薄灰色の視線を投げつけてきたが、ジェームズは怯まなかった。
「付き合ってない」
「じゃあ、どうして急に仲良くなったんだい?」
「恋人じゃない女子と急に仲良くするのがそんなにいけないことか?」
「別にそういうわけじゃないけど……」
今度こそこの話題を終わらせようと思ったのだろう。シリウスは立ち上がった。部屋に戻られても同室だから更に問いただすことはできる。しかし、ジェームズはそうすることができなかった。
「あの……」
何とかシリウスを引き止めようとめぐらした思考は、控えめな甘い声で遮られた。
声の方に視線を向けると、栗毛で愛らしい顔立ちをした女の子が、頬を染めて立っている。しかし、その目にはどこか媚びるような色があった。
ジェームズはちらりとシリウスを見た。こんな風に自分たちの前に立つ女子生徒は、大抵、告白をしたがっている。そのほとんどが、シリウスに。
「わたし、5年生のクリス・ストーンです。あの……ブラック先輩に……ちょっと、いいですか?」
「何?」
シリウスも、彼女の用事が何かわかっているのだろう。形のいい眉を顰めてクリス・ストーンを一瞥した。
あれ?
ジェームズは内心、首を傾げた。シリウスはエミリーと別れた。最近仲良くなった・とは別に付き合っていないと言う。つまり、彼には今、恋人がいないはずだ。
今までだったら、このタイミングでシリウスに告白すれば大抵OKの返事がもらえるはずだ。多少、返事がおざなりではあっても。しかし、目の前の親友は明らかに告白してきた後輩に対して嫌そうな表情を浮かべている。
「ここだと、ちょっと……」
それに気づいていないのか、クリス・ストーンは頬を赤らめたまま小さな声でそう言った。シリウスの眉間の皺がますます増えるのに、ジェームズは気がついた。
「悪いけど」
シリウスの声。
「告白だったら、答えはNOだ」
談話室に、ひそひそ声が広がった。シリウスの声のトーンが変わっていなかったから、大抵の生徒に今の言葉が聞こえたらしい。好奇の視線がシリウスとクリスに注がれ、ジェームズは少し驚いて親友を見つめた。
恥ずかしさなのか怒りなのかわからなかったが、クリスは顔を真っ赤にしてシリウスを呆然と見上げていた。しかし、シリウスは表情1つ変えずに踵を返し、今度こそ寮の階段を上って行ってしまった。
「待てよ!」
ジェームズはクリスをそのままにしておく後ろめたさを少しだけ感じながら、慌てて親友を追いかけた。まさか、本当に告白を断るなんて。
「パッドフット」
部屋には他に誰もいなかった。ジェームズは自分のベッドでごろりと仰向けになったシリウスを見下ろした。
「どうして告白を断ったりしたんだい?」
「そんなこと、好きじゃないからに決まってるだろう」
「君は今まで好きでもない子と付き合ってきたじゃないか」
呆れたジェームズの声に、シリウスはばつが悪そうに顔を顰めた。
「なのにどうして今更……それも、あんな大勢いる前でなんて」
「じゃあ、いつも通りOKしたほうがよかったのか?」
「それは……別にそういうわけじゃないけど」
「ならいいだろ」
横になってしまったシリウスの表情は見えない。
確かにシリウスの言う通りだった。今まで、シリウスが好きでもない子と付き合うことをジェームズはよく思っていなかった。だから別にシリウスが告白を断ったことは何の問題もないはずだ……大勢の前だったということを除けば。しかし、何だか腑に落ちない。
「パッドフット、君、もしかして……」
少し考えながら、ジェームズは探るように言葉をつむいだ。
「のことが、やっぱり気になってるんじゃないか?」
「そんなんじゃないさ」
その言葉には不思議な響きがあった。ジェームズはしばらくシリウスを見つめていたが、それ以上は何を聞いても無駄だと覚り、自分も大人しく自身のベッドに腰を下ろした。
か……。
ジェームズの脳裏に大人しい銀色の髪の同級生の顔が浮かんだ。彼女は自分の想い人の親友だったから、その顔はよく知っている。
シリウスはのことを気になっていないと言うし、付き合っていないとも言う。でも、もし告白を断ったことにが関係していたなら―― と親しくなったことが原因なら、その方がいいかもしれない。
シリウスが好きでもない子と付き合い続けるのに比べたら、このままと一緒にいてくれるほうがよっぽどマシだ。いや、その方がいいに決まっている。ジェームズは心底そう思った。
このまま2人が付き合えばいいのにな……。
そう思い始めたら、それが理想的なような気がしてくるから不思議だ。脳裏に浮かんだ並んで歩く2人の姿を打ち消すように、ジェームズはベッドにごろりと寝そべり、強くそのヘーゼルの瞳を閉じた。