「パッドフットとだ」
隣を歩くピーターが窓の外を見たのにつられ、リーマスも視線を流した。校庭を歩く2人の姿がよく見える。
最近、シリウスと・がよく一緒にいることを、リーマスも知っていた。それと同時に、シリウスが以前のように「彼女」を作らなくなったことも。最初、2人は付き合っているのだろうかとリーマスも思ったけれど、どうやら違うらしい。
「あの2人、本当に付き合ってないのかなぁ?」
「付き合っていないってどうしてわかるんだい?」
「前にプロングズがそう言ってたんだ」
「それに、何となくそうかなって」口ごもるピーターの、言いたいことはよくわかる。あの2人には誰の目から見ても明らかに、恋人同士特有の雰囲気がなかった。もっとも、それに気づかずにを悪く言う女子生徒もいたけれど。
校庭から視線をはずし、2人はまたしばらく廊下を進んだ。次に足を止めたのは、リーマスの方だった。
進行方向にある窓の傍に、人影を見つけたからだ。ルナ・アーヴィングだった。の親友で、ルームメイトの。
リーマスはほんの少し、自分の鼓動が速くなるのを感じた。そしてピーターに先に戻っていて欲しいと頼んで、彼はルナのところにとどまることに決めた。リーマスの行動にピーターは少し首を傾げたけれど、そんなことは気にならなかった。
「何を見てるの?」
ピーターがいなくなった廊下で、リーマスはルナに声をかけた。明るいブルーの瞳が、校庭からリーマスの方へと移される。
「あの2人」
急に声をかけられたことに驚きもせず、ルナは答えた。その人差し指が向いた先には、シリウスとがいた。
「ああ――」
何でもないことのように、リーマスは言った。
「最近、あの2人よく一緒にいるよね」
「そうだね」
「気になる……?」
失敗したかなと半分くらい思いながら、それでもリーマスはたずねていた。窓の外を見ていたルナの、澄んだ瞳がリーマスを捕らえる。彼女は少し驚いたような顔をして、それから少し笑った。
「何で?」
おかしいことを聞くのねと言わんばかりの雰囲気で、リーマスはほんの少し頬が熱くなるのを感じた。やっぱり、失敗したのかもしれない。
「それは……」
言いよどんで、気になるのは自分のほうだと気づいた。あの2人がではなく、あの2人をルナが見ていたことが、リーマスは気になって仕方なかったのだ。
―― 付き合ってるんだ。
去年、シリウスの口から放たれた冷たい言葉が脳裏を過ぎった。あの瞬間を、リーマスはよく覚えていた。何しろ
何しろそれまで「気になっていた女の子」だったルナが一気に「片想いの相手」に変わった瞬間だったから。
「去年、少しだけ……シリウスと付き合ってただろう?」
リーマスはルナの方を見ないように、そっと窓を見た。あの2人はまだ動いていなかった。腰を下ろして、何か喋っているようだ。時々、シリウスがのほうをじっと見つめているのがリーマスたちのいるところからでもわかった。
「まだ、好きなのかと思って……だから」
「見ていたんじゃないの?」その言葉を飲み込んで、リーマスはそっと窓ガラスに傷のついた自分の手を寄せた。きっと今、自分はとても情けない顔をしているのだろう。
それでも朗らかな笑い声が聞こえた時、さすがにリーマスを顔を上げざるを得なかった。どうして笑うのだろうか。そんなにおかしなことを言ったつもりはなかったのに。
顔を上げた先にいたルナは、悪戯っぽい笑みを浮かべてリーマスを見ていた。
「どうして笑うんだい?」
「ごめんね、ただ、周りから見るとそう見えるのかなと思って」
ルナの視線は窓に向いていなかった。それどころか、彼女は体ごとリーマスに向き合っている。
「あのね、わたし別にシリウスが好きだから付き合ったわけじゃないよ」
「えっ?」
「まあ、シリウスもわたしのこと好きじゃなかったけど……」
「それなら……どうして?」
確か、ルナから告白したはずだ。「付き合わない?」とそう簡単に言われて簡単にOKしたのだとシリウスが言っていた気がする。
「興味本位、かな? ちょっと気になることがあって……それを確かめたかったの」
「気になること?」
質問ばかりだと、リーマスは思った。でもルナはそんなこと気にしていないようだった。
「はね」
ルナの体はリーマスに向き合ったままだけれど、その澄んだブルーは再び窓の外に向けられてしまった。それが少し、残念だった。
「ずっとシリウスのことが好きなの。内緒だよ?」
口元に、悪戯っぽい笑み。
「それでずっとシリウスを見てた。親友の片想いの相手が気になって、わたしもシリウスを見てた。それで、何となく思ったの」
「何を?」そう心の中でたずねながら、リーマスは先を促すようにルナを見つめた。
「シリウスも―― あんな風にテキトウに恋人を作ってたけど、本当はのことが好きなんじゃないかって」
窓の外の2人は、立ち上がって移動しようとしていた。遠目でもシリウスが立ち上がるに手を差し伸べているのがわかった。あんなこと、今まで「彼女」だった女の子たちには絶対にしなかったのに。
「そうかもしれないね」
自然に口をついた言葉に驚くことなく、リーマスは自分でも不思議なくらいすんなりとその言葉を受け入れていた。